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札幌地方裁判所 平成10年(ワ)526号 判決 1999年3月24日

原告

原告

原告ら訴訟代理人弁護士

上田文雄

中村誠也

荻野一郎

木下尊氏

被告

東京総合信用株式会社

代表者代表取締役

芳野昭彦

訴訟代理人弁護士

海老原元彦

廣田壽徳

竹内洋

馬瀬隆之

島田邦雄

田子真也

山田忠

主文

一  被告は、原告甲に対し、金五〇万円及びこれに対する平成一〇年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告乙に対し、金五〇万円及びこれに対する平成一〇年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  原告らの請求

主文と同旨(附帯請求の起算日は、訴状送達の日の翌日)

第二  事案の概要

原告甲は、被告とのクレジット契約によりココ山岡宝飾店から五年後買戻特約付きでダイヤネックレスを購入し、その後、弁護士に委任して被告に支払拒絶通知をしていた。ところが、その父である原告乙に対し、実際には保証人になっていないのに、被告から二回にわたって、保証人としての支払を督促する書面が郵送された。

原告らは、この違法な取立行為により精神的苦痛を受けたとして、被告に対し慰謝料の支払を求めた。

一  前提となる事実(争いのあるものは証拠を掲記)

1  原告甲は、昭和四六年三月生まれの独身の女性であり、平成五年に△△を卒業し、平成八年四月から現在まで登別市<番地略>に勤務している(甲一三)。

原告乙は、原告甲の父であり、昭和三六年四月から現在まで××として勤務している(甲一二)。

2  被告は、割賦購入あっせんなどを業とする信販会社であり、札幌市に札幌支店を設置している。被告札幌支店では、債務者に対する督促などの債権回収業務は、管理課長の花岡和彦が責任者として担当している。

3  原告甲は、平成八年一〇月五日、株式会社ココ山岡宝飾店に札幌パルコ店で、被告とのクレジット契約(立替払契約)を利用して、ダイヤネックレスを代金一〇三万円で購入した。分割払手数料を含めた支払総額は一三八万八四四〇円であり、原告甲は、被告に対し、これを六〇回に分割して毎月割賦金を支払う約定であった。

ココ山岡は、原告甲に対し、五年後には、販売したダイヤネックレスを購入価格と同額で買い戻すことを約定し、クレジット契約書の販売条件欄に「五年後100%買取」と記入した。契約書(信販会社用)の連帯保証人欄には「連帯保証人」に印刷文字を二本線で抹消したうえ、参考と付記して、原告乙の氏名、住所、電話番号などが記入された。

4  ココ山岡は、平成九年一月、横浜地方裁判所から破産宣告を受けた。原告甲は、これにより五年後買戻しの履行が受けられなくなったため、ココ山岡被害対策札幌弁護団に対策を委任し、委任を受けた木下尊氏弁護士は、被告札幌支店に対し、同年五月二七日、ココ山岡との販売契約の解除、詐欺による取消を理由として、支払拒絶の通知をした。

原告甲は、この支払拒絶通知をしたことに伴い、被告に対し、同年九月分以降の割賦金の支払を停止した。

5  被告では、債務者が割賦金の支払を遅滞した場合、本社のコンピュータシステムにより、金融機関から未入金のデータが送付されると自動的に、一回目は債務者本人にあてて督促の書面を発送し、二回目以降は債務者本人のほか保証人にあてても督促の書面を発送するという仕組みをとっている(乙三、証人花岡)。

6  平成九年一一月一日ころ、原告乙に対し、被告から「お支払遅延のお知らせ」と題する督促の書面が郵送された。その書面には、原告甲がココ山岡で利用したクレジットの同年九月分と一〇月分の合計二万六五二四円の支払がないので、連帯保証人として至急支払うよう督促するという趣旨の文言が記載され、それに続けて「万一、お支払いがこれ以上遅延いたしますと、貴殿にもご迷惑がかかることにもなりますので何卒よろしくご配慮下さい」との文言が記載されていた。

しかし、原告乙は、実際には、原告甲が利用した被告とのクレジット契約について、連帯保証をしていなかった。

原告甲は、父である原告乙に対し、ココ山岡からダイヤネックレスを購入したことを内緒にしていた(甲一三)。

7  被告から原告乙に対しては、さらに、平成九年一一月二七日付けで「督促状」と題する書面が郵送された。その書面には、先般連絡したクレジットの支払がまだなく、これ以上は待てないので、連帯保証人として三日以内に同年九月分、一〇月分と一一月分の合計四万〇二五二円を支払うよう督促するという趣旨の文言が記載され、それに続けて「万一お支払いいただけない場合は、已むなく貴殿に対し法的手続きを執らせていただきますのでご承知置き下さい」との文言が記載されていた。

8  被告のコンピュータシステムには、誤って、原告乙が原告甲の保証人として登録されていたが、被告は、平成九年一二月九日、この入力を抹消して訂正した(乙三、証人花岡)。

二  争点

1  被告の不法行為

(原告らの主張)

被告による原告乙に対する請求は、ココ山岡被害対策弁護団が原告甲の代理人として支払拒絶の通知を行っているにもかかわらず、法的責任のない者に対してしつように債務の弁済を強要する違法かつ悪質な取立行為である。

(被告の主張)

被告が原告乙を保証人と誤認した書面を送付したのは、クレジット契約書の連帯保証人欄に、参考としてではあるが原告乙の氏名が記載されていたために、コンピュータへの登録時に保証人として入力したという単純な事務処理上の過誤に起因する。二回目の誤送付がされたのも、事実関係の調査のため登録の抹消が遅延したからである。

いずれも、被告において原告乙が保証人でないことの認識をもちながら、意図的に行ったものではなく、違法性を認めるに足りない。

2  原告らに対する慰謝料

(原告らの主張)

原告乙は、被告による取立行為により、驚き、自らの職場や原告甲の職場にまで電話などによる督促が始まるのではないかと危ぐして、精神的に不安な日々を過ごすことを余儀なくされ、精神的に多大な損害を被った。

原告甲は、遠く離れた地に住む親に秘密にしておきたいことを知られて、いらぬ迷惑を掛けてしまい、今後、親に何らかの不利益が及ぶのではないか心配して、精神的に不安な日々を過ごすことを余儀なくされ、精神的に多大な損害を被った。

(被告の主張)

書面の誤送付は、被告乙に対して発生したものであるから、これについて原告甲が精神的損害を被るものではないし、固有の慰謝料請求権を取得する余地もない。装身具であるダイヤの購入は、他人に知られることが前提とされているのであり、恥じるべきことでも、親に秘密にすべきことでもない。

原告乙は、原告甲の保証人でないのであれば、書面が送付されたのが誤りであることは容易に承知しうるものであるから、それにより精神的苦痛を被る合理的理由はない。

被告は、内容証明郵便で、原告乙に対して、既に謝罪の意を表明している。原告甲の精神的苦痛も、これによって既に十分に慰謝されている。

第三  争点に対する判断

一  事実経過の認定

1  証拠(甲六、七、九、一〇、一二、一三、乙三〜五、証人木下、花岡)によれば、次の事実を認めることができる。

(1) 原告甲は、平成九年一一月二日ころ、父である原告乙から電話で、被告から督促の書面が送付されてきたとの連絡を受けた。原告甲は、一一月七日、ココ山岡被害対策札幌弁護団の木下尊氏弁護士に電話で連絡し、原告乙は保証人でないから督促行為をやめさせてほしいと依頼した。木下弁護士は、原告甲からファックスで送付された「お支払い遅延のお知らせ」と題するその督促書面を確認し、同日午後四時六分ころ、被告札幌支社へ電話をかけた。

(2) 木下弁護士は、電話に出た被告札幌支社の花岡和彦管理課長に対し、ココ山岡被害対策札幌弁護団の弁護士であることを告げたうえで、クレジット契約書では原告乙は保証人となっていないのに、なぜ督促の書面を送付したのかと、その理由を訪ねた。花岡課長は、通話中に、コンピュータから原告甲について入力されたデータを取り出し、コンピュータには原告乙は保証人として登録されていることを確認したが、木下弁護士に対しては「調べてみる」と応答した。

(3) 花岡課長は、ココ山岡関係のクレジット契約書は本社で保管していたので、すぐに本社へ連絡して、同日午後五時二三分ころ、ファックスで契約書の送付を受けた。花岡課長は、送付された契約書を見て、連帯保証人欄に「連帯保証人」の印刷文字を二本線で抹消したうえ、参考と付記して、原告乙の氏名、住所、電話番号などが記入されていることを確認した。

(4) 木下弁護士は、一一月一三日午前一一時五六分ころ、調査の結果を尋ねるため、被告札幌支社へ電話をかけた。花岡課長が「原告乙は保証人ではなかった」と答えたので、木下弁護士は「それを文書で回答してほしい」と要請したが、花岡課長は「本社と相談しなければ出せない」と言って、その要請は断わった。

(5) 花岡課長は、その後も、原告乙が保証人として登録されているコンピュータの入力データを訂正しないでいた。そのため、クレジット契約で割賦金の支払期日とされている一一月二六日が過ぎ、再び原告乙に対して督促の書面が発送された。

2  証人花岡は、これに対し、ファックスで送付されたクレジット契約書によると原告乙は保証人になっていなかったが、別に追加保証がされていないかを確認しないと保証人かどうかの確定ができないので、追加保証の資料を保管している業務課に調査を依頼した。一一月一三日にはまだ調査中であったので、木下弁護士に対しては「保証人ではないようですね」という言い方をし、保証人ではないとは明言しなかった。原告乙が保証人であるかについて疑問は生じたが、督促状の発送を止めると被告はもう請求をやめたと受け取られ、債権が損失に陥ることにもなるので、その段階ではコンピュータからの登録抹消はしなかった。一二月に入って業務課の調査結果が出て、保証人でないことが確定できたので、登録を抹消してデータを訂正したと供述する。

しかし、本件のようなクレジット契約で、特別な事情もなく追加保証が求められることは考えられない。原告甲が割賦金の支払を遅滞していたとはいっても、それは弁護士に委任して支払拒絶の通告をしたことに伴うものであり、追加保証がされるべき理由にはなりえない。一一月一三日に花岡課長と電話で話した後、木下弁護士が中村誠也弁護士に対して「本日、札幌支店花岡氏に確認したところ、乙氏は保証人ではないことが確認されたとの回答を得ました」との文書をファックスしていること(甲二三)も考慮すると、一一月一三日には原告乙が保証人でないとは明言しなかったという証人花岡の供述は信用できない。

3  追加保証について調査をする必然性がなく、一二月四日にはココ山岡被害対策札幌弁護団の弁護士から被告本社に対し、原告乙への一回目の督促書面の送付について北海道通産局に指導要請の申立てをしたことを通知する内容証明郵便が配達され(甲五の1・2)、その後に登録を抹消してコンピュータの入力データが訂正されていることを考慮すると、むしろ、花岡課長は、クレジット契約書を見て原告乙は保証人ではなく、誤って保証人として登録されたものであることを確認し、木下弁護士にもそのように答えたが、コンピュータからの登録抹消はしないまま放置していたところ、弁護団から被告本社に内容証明郵便が送られてきたことを知らされて、急いで登録を抹消したものと認めるべきである。

二  被告の不法行為について

1 原告乙が保証人として登録されたことは、事務処理上の過誤と理解することができる。しかし、被告札幌支店の花岡課長は、木下弁護士からの電話を契機として、原告乙が実際には保証人でないのに督促書面が送付されたことを確認したのに、コンピュータへの登録を抹消しないまま放置し、そのために、原告乙に対して二回目の督促書面が送付されることとなった。

実際には保証人でない者に対して督促書面が送付されることは、とりわけ被告のような大手の信販会社にとっては、あってはならないことである。花岡課長が登録を抹消しないまま放置した事情は明らかでないが、少なくとも、保証人でない者に対して督促書面が送付されることの重大性を認識していなかったためということはできる。仮に、証人花岡がいうように、追加保証の有無を調査する必要があったというのであれば、被告は、クレジット契約書に保証人として記載されていない者に対しても、いったん保証人として登録されてしまったら、保証人でないことが確認されない限り督促書面を送付するという取扱いをしていることになる。このような取扱いもまた、保証人でない者に督促書面が送付されることを是認するものであり、信販会社の姿勢として問題がある。

2 これらの点を考慮すると、被告には、事務処理上の過失により原告乙に対して一回目の督促書面を送付し、花岡課長の重大な過失により二回目の督促書面を送付した不法行為があったといわなければならない。

三  原告らに対する慰謝料について

1  証拠(甲一二、一三)によれば、一回目の督促書面の送付により、原告甲がココ山岡からクレジットで商品を購入していたことが父である原告乙の知るところとなり、原告甲は、これによって自分が置かれている状況を説明しなければならなくなって、親に無用な心配をかけることになったこと、他方、原告乙は、離れて暮らしている原告甲が月額一万三〇〇〇円程度の支払ができないほど生活に困っているのかと心配し、また、なぜ自分に督促がくるのかと不安な気持にもなったこと、原告甲が弁護士に委任して被告との対応をしているはずなのに、二回目の督促書面が送付されて、原告らは不安な気持をますます強くしたことが認められる。

2  原告らがこのような精神的苦痛を受けたことは、親子の情愛として、あるいは、ココ山岡の商法とその破産に伴う被害の発生が社会問題化していた当時の状況において(甲二〇の1〜11)、よく理解できるところである。

これに被告の過失内容も考慮すると、この精神的苦痛に対しては、それぞれ五〇万円の慰謝料を認めるのが相当である。

3  被告が既に謝罪の意を表明したという内容証明郵便(乙二の1)は、その文章全体から見て、謝罪に意を表明するものとはいえない。

(裁判官片山良廣)

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